リフォーム多能工と多能工育成について
1.リフォームビジネスで今後絶対に求められる施工品質と多能工
脱炭素社会にむかって住宅も新築からリフォームへと大きく変わってきています。その中でこの数十年間変わっていないのが、現場で働く職人による住宅生産、働き方です。足元の職人不足の解消と一緒にこの問題を変えなければ、脱炭素・環境負荷低減といった新たな社会へリフォームも対応できないでしょう。この新しい時代に対応できるリフォームの人材として“リフォーム多能工”を育てようというのが私たち住能協の活動です。
昨今、住宅建築は各種資材・建材が工業製品化・部品化が一段と進み、作業分野も細分化され新しい職種も多くなっています。住宅が自然素材から工業化製品を多用するモノづくりとなり、工期も3カ月足らずに短縮されるようになっていますが、現場に入る職人は大工だけでなく専門工事まで少なくても10数職種、100数十人工以上の職人が必要です。30年前と比べると工期・人工はずいぶん少なりましたが、新しい建材・機器・職種が増えた一方で、職人の仕事が変わらないことも多いので手待ちや無駄も多く発生しており、時間的なロス、工程・品質管理のロスが目立つようになっています。こうした問題に対して新築分野では、ここ数年職人や技術者不足の対策として新たな合理化工法や工場生産化の進展で、何とか職人不足については対抗してきました。リフォームではどうだったでしょうか。
リフォームの現場では、新築のような新工法等はほとんど通用しません。小さな現場にも新築と同じように専門化した多職種を入れるので、新築の現場以上に無駄やロスが多くなります。
そこで私たち住能協は、リフォームに特化した“リフォーム多能工”が必要だと考えています。これまでもリフォームではベテラン職人が多能工として活躍してきた例はありましたが、経験豊富で何でもできる職人は殆どいなくなっています、新たに探すこと難しい時代です。リフォーム事業者は、今後のため自社でリフォーム多能工を育て活用していくしか道はありません。
職人不足だけでなく若年入職者が少ない今どきの職人の世界で、リフォーム多能工の育成はできるのだろうかという疑問もあります。
多能工育成は以前から一部で行われて来ましたが多くが成功していません。その理由は、職人不足の問題解決という面よりも、1人の職人が複数工種を行う事で労務費の削減、コストダウンの効果を期待しすぎるからです。今でも多能工のコストダウン効果を期待する経営者は多いと思いますが、これは多能工を育成の良い方向の結果です。コストダウンは別に考えなければならないことです。
また、これまでの多能工育成がコストダウンの為だけであれば、職人には何のメリットもありません。職人の側からすると、複数の工種ができるのに1職種の時と同じ賃金かわずかに増える程度では、一生懸命複数勉強する意味がないので、多能工になりたいという人はいません。だから多能工が育たなかったし、この考えでは今後も多能工は育ちません。職人になりたいという若い人たちにも、今後の職人大不足時代の多能工の必要性もやり甲斐も伝わりません。
逆に、これから働き方改革の時代ですので現場も完全週休二日制となれば、働き盛りの現役職人の大多数は新築やビルその他の建築に行ってしまい、リフォームには回ってきません。職人からすれば、リフォームの仕事の仕方が今までと何ら変わらないのであれば、新築など面積が一定程度以上ある現場で仕事をする方が自らの技量で生産性があげられるので、リフォームが多少単価が高くても単位時間当たりの生産性の悪い現場は敬遠されます。なぜなら職人不足時代は、完全に職人の売り手市場ですので何時でも仕事があり、もっと効率が良くより多く儲けられる現場が優先されるからです。しかし、これは職人にとっても常に生産性の競争しなければならない厳しい道です。
“リフォーム多能工”というのは、こうした今日の職人マインドに対して、リフォームでは複数職種を1人で行うことが、現場の生産性を上げることだと示すことです。そうすれば、現場の数をこなすことでしか得られない増えない収入を複数職種の仕事を1つの現場で行う事で同様の収入が得られるとなれば、リフォームにも多くの優秀な人材が集まります。この“リフォーム多能工”の育成は人材確保にも役立ちます。
そして、建設業界や職人にかかわる社会制度等に対応するためにも、“リフォーム多能工”の育成は役立つはずです。
一つは、現場の週休二日制への対応と生産性の向上です。国も職人不足に対して盛んに現場生産性の向上を言うようになっています。日本でも「働き方改革」が進み現場を持つ建設業でも週休2日制が始まります。リフォーム会社では事務所は週休二日制が多くなりましたが、依然として現場は週休1日で動いています。働き方改革法では現場の週休二日制も義務化されました。また法律では猶予期間が設けられており完全実施されるのは3年後です。
現場にとって、週休二日制になると今まで週5日間しか働けません。1週間の職人の出来高も2割減ることになります。日当であれば2割減少しますし、坪受けであれば工期が2割増加します。同じ賃金請負金額を維持するのであれば、どうしても生産性を上げる必要があります。リフォームでは複数職種ができる多能工が行うのであれば、施工面積も多くないので連続した工程を1人で行う事ができるので大幅な工期短縮が可能であり、手待ちの無駄、材料等の無駄も削減できるという大きな効果が生まれます。週休二日制には多能工化でこれまでと変わらない生産性を維持できます。